2006年10月06日作成
2006年10月06日更新

雪中の奇跡

The Special Providence - 書評 - 雪中の奇跡


雪中の奇跡 梅本 弘 著 大日本絵画 刊 ISBN4-499-20536-0

1939年にソ連がフィンランドを侵略した戦争(第1次ソ芬戦争、冬戦争)について描いた本です。著者の梅本氏は繰り返しフィンランドを訪問して取材し、フィンランド語も読解できるようになったそうで、凄い努力です。これほど詳しく描かれたソ芬戦争の本は日本では他に手に入らないのではないでしょうか。

ロシア革命後の内戦を経てロシアから独立することに成功したフィンランドは、現在よりも広大な領土を持っていました。というのも、フィンランドとロシアの国境地帯に広がるカレリア地方はフィンランド人の故郷とも呼ばれる土地であり、ソ芬戦争まではこれらの土地の大半はフィンランド領でした。これによりレニングラードのすぐそばまでフィンランド領になっていたわけです。一方、北方ではフィンランドはバレンツ海への出口となるペッツァモを保有していて、ここには重要なニッケル鉱山もありました。もっとも、ペッツァモは独立後のソ連との講和条約で獲得した土地です。これに対しソ連は、レニングラード防衛への障碍になるので、カレリアの大部分を割譲するように迫り、その代わりにソ連-フィンランド国境中央部のより広い土地を割譲すると言うのですが、新たに割譲されるという土地は不毛な森林地帯であるのに対して割譲を要求されたカレリアはフィンランドの経済・人口の集中する土地でありとても呑める条件ではなく、このため第1次ソ芬戦争に突入することになりました。

フィンランド軍は特に戦車や航空機、重砲などの重装備に欠けていて、わずかながら装備しているものも弾薬が不足しているという絶望的な状況でこの戦争を迎えます。これに対してソ連軍は3倍を上回る兵力に圧倒的な重装備を備えて、指揮官が「スウェーデン領を侵犯しないように」という冗談なのか本気なのかわからないような注意を与えて侵攻作戦を行います。

この状況でのフィンランド軍の抵抗は見事の一言に付き、最終的には圧倒的なソ連軍の兵力に対して自軍の10倍を超える損害を強要して、フィンランド第2の都市ヴィープリを含むカレリアの大部分を割譲することにはなりますが、フィンランド全土がソ連に併合されてしまう最悪の結末だけは逃れることに成功します。まさにその当時世界のマスメディアが伝えたように「雪中の奇跡」です。いかにしてこの奇跡を劣勢なフィンランド軍がなしえたかは、とにかくこの本を読んでもらう他はありません。鈍重でただひたすら前進してくる以外に能の無いソ連軍に対して、頭を使いスキー部隊の機動力を生かして実に見事に抵抗しています。最終的には、ソ連側もやっと体制を入れ替えて徹底した重装備の利点を生かした攻撃でスチームローラーのように押し潰してしまいますが、ここまで時間を引き伸ばして抵抗、善戦したおかげで、国際社会の介入を恐れたスターリンに講和条約を認めさせることになったといえるでしょう。

しかしそれにしてもフィンランドは哀れ以外の何者でもありません。人口の少ない小国が、圧倒的な人口と工業力を誇る大国に隣接して存在し、しかも侵略的な指導者がいるという状況だったわけですから。さらにバレンツ海への出口を持っていましたが開戦するなりソ連軍に占領されて使えなくなり、隣接するノルウェーとスウェーデンはあくまで中立を守ったために味方に立って参戦してくれるどころか英仏の援助軍の通過すら拒否されてしまいます。そして唯一フィンランドへの援助を送るルートとなりうるバルト海経由ルートもソ連の潜水艦や航空機による執拗な攻撃を受け、さらに独ソ不可侵条約のためこの頃はドイツもフィンランドに対して冷たかったので、まさに孤立無縁な状況で闘わなければならなかったわけです。これがもし自国の事だったらとぞっとするような感がします。ポーランドといいベルギーといい、大国に挟まれた小国の悲哀を感じさせられます。それゆえに平時から国の舵取り、外交戦略というものが非常に大事なのですが、日本は一度も外国から侵略を受けて国土を全て失う経験をしたことが無く、しかも人口が多い島国であるという防衛上の非常な利点もあるために、国民の意識があまりに低すぎると感じられます。こういう小国の悲哀を描いた本を、一度は読んでみるべきでしょう。

雪中の奇跡 - 書評 - The Special Providence

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