2006年06月04日作成
2006年06月04日更新
The Special Providence - 書評 - スペースシャトルの落日
前回に続いて、宇宙開発関連の記事・著作を多数発表している松浦氏の本です。一般には最先端の技術を結集して造られた信頼のできる優れた宇宙輸送システム(Space Transportation System)と思われているアメリカのスペースシャトルが、実は大変な欠陥作品であったということを明らかにしています。
スペースシャトルは、アポロ計画の後にアメリカが開発した宇宙往還機システムであり、アポロ計画に使われたサターン5型ロケットが全て1回しか使われない使い捨てのシステムであったのに対して、何度も再利用することでコストダウンを狙っているところが特徴です。スペースシャトルといって通常イメージする翼の付いた機体はオービターと呼ばれて、人間と貨物を搭載して宇宙空間を飛行する部分ですが、これは着陸してから再整備されてまた打ち上げに使われます。また打ち上げの際にオービターを持ち上げるロケットが付いていますが、これはオレンジ色の巨大な方が液体水素と液体酸素を入れた燃料タンクでこれは1回限りの使用(燃料を使い果たすと切り離して投棄)で、横についているロケットは切り離した後回収されて再使用されます。使い捨てにされていたものを再利用できるようにしてコストダウンというのは非常に分かりやすいストーリーなのですが、話はそう単純ではないと筆者は言います。
まず、宇宙へ人間と貨物を輸送するのに同じシステムを用いることの問題ということがあります。宇宙へ人や物を運ぶのには大変なコストが掛かりしかも失敗する確率もそれなりにある危険な仕事であることに変わりはありません。これが運ぶものが貨物であるのならば、打ち上げ失敗の確率をある程度許容することでコストダウンを図り、失敗しても打ち上げなおすことができるくらいにしておくということが許されます。しかし人間を運ぶのであれば失敗する確率を可能な限り下げることがどうしても必要です。スペースシャトルでは20トンあまりのペイロードと宇宙飛行士7人を同じ機体で運ぶので、失敗する確率を人間だけを運ぶ宇宙船と同じ基準でできる限り下げることが求められ、その結果貨物までも不必要な安全性(=コスト増加要因)で輸送することになってしまった、と指摘されています。また、スペースシャトルのシステムは120トンの重量のあるオービターを軌道上に打ち上げる能力があるのに、そのうち70トンは空の状態のオービターの自重であって、それは結局地上に帰ってきてしまうというところも指摘されています。つまり、軌道上に大変な手間をかけて重量物を打ち上げているのに、それが地上に帰ってきてしまうのです。現在建設が進められている国際宇宙ステーション(ISS)の計画も、オービターにISSの部品になる貨物を積んで打ち上げるのではなく、打ち上げシステム自体でISSを丸のまま打ち上げて、打ち上げられた部分は地上に帰ってこないものとして設計した方がスマートなのではないか、と言われるとなるほどと思われます。
他にも、大気圏再突入時に機体を高温から保護する面が打ち上げ時に露出している点や、そもそも有翼であることの必要性といった、スペースシャトルの設計の不味さにも触れていて、これまたいちいちなるほどと思うことばかり。後出しの指摘であるという点も多分にありますが、それでも徒にスペースシャトルの欠点に目をつぶって賛美し続けるのでは宇宙開発により停滞をもたらすことになるでしょう。その点でこの本は重要だと思われます。ISSを巡る現在の各国の思惑やこれからの日本の宇宙開発への提言も含まれていて、興味深い本です。
スペースシャトルの落日 - 書評 - The Special Providence
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