2006年03月05日作成
2006年05月29日更新
The Special Providence - 書評 - ソビエト航空戦
第2次世界大戦の主要参戦国といえば日米英独、それにソ連ということになるのでしょうか。この本の巻頭でも書かれているのですが、参戦はしても早々に枢軸国側に占領されてしまったりろくな活躍をしなかったりで「その他の国々」というカテゴリに落ち込んでしまった国がたくさんあります。そうした国々の航空機がろくに知られていないのはある意味仕方ない面もあるのですが、一方で主要参戦国であるはずのソ連の航空機はこれまであまり知られてきませんでした。これはソ連が共産圏でありなかなか資料が公開されなかったことと関係しているようです。私もイリューシンIl-2"シュトゥルモビク"のような著名な機を除くとろくに大戦期のソ連軍用機を知らなかったのが実情でした。この本は、ソ連末期のグラスノスチ(情報公開)以来明らかになってきたソ連の軍用機の実情を詳しく描いた本です。
一般には動力付き飛行機の発明はアメリカのライト兄弟に始まるとされていますが、旧ソ連では違うそうで、アレクサンドル・モジャイスキーという人が1884年に動力飛行機械を飛ばしたのが最初とされていたとか。この本はそのあたりのロシア帝政時代の航空機開発の話から説き起こしています。このような航空機初期の頃からやはりさすがにロシアというべきか、ロシア革命以前に既に様々な開発が行われていて、単に数で押すだけではない技術力を見せてくれます。といっても革命の混乱やスターリンの粛清などで政治からは多大な妨害を受けることになるわけですが、それにも関わらずこれだけ技術を進歩させてきたのは凄いことだと思われます。もっとも、ドイツだってヒトラーによってユダヤ人技術者が追放されて自らの首を絞める行為だってあったわけなのですが、ロシア・ソ連では桁が違う政治からの妨害が行われていたようです。
第1次世界大戦から第2次世界大戦までのいわゆる戦間期にはソ連体制によって急ピッチで軍用機の開発が進められます。米英では平和な時代で軍事費が削られ、開発が進展しなかったようなのですが、それでも第2次世界大戦になると急激に優れた技術力を発揮して様々な優秀な航空機を送り出してくるのはもともと技術力の基盤があるということなのでしょう。一方、共産圏で平和な時代でも関係なしに軍事費を大量に注ぎ込んだソ連は着々と新型機の開発を進めるものの、革命の混乱で技術者を失っていたこともあってなかなか新型の優秀機を投入するに至りません。ドイツとソ連の間で結ばれた秘密条約、ラパロ条約で、ドイツがベルサイユ条約で禁止されていた航空機などの開発をソ連領内で行うことになり、その見返りに技術供与が行われるのですが、その供与された技術がソ連航空技術陣にとってはとても貴重なものだったとか。ドイツとしてみれば旧式で与えても惜しくない技術しか与えなかったようなのですが。
やがてスターリンの大粛清が始まり、ソ連技術陣はさらに大打撃を受けます。何しろ何の容疑もない人間に適当な理由をつけて刑務所に放り込んでしまうわけですから。中国では文化大革命の時期であっても核開発関係だけは守られていたと言いますが、ソ連は何も考えていなかったのか、航空機を開発していた技術者であっても容赦なく刑務所に送られ、牢獄の中で開発を続けさせられたということです。理解不能なことは、独ソ戦が始まってなおこうした待遇が続けられた技術者もいたということですね。
独ソ戦が始まった当時、ソ連空軍には旧式機しかおらず、新型機は量産の途上でした。このため優秀機が揃えられていたドイツ空軍によって大打撃を受けてしまいます。さらにソ連領内奥深く侵攻されて、開発部隊も疎開を余儀なくされ、生産工場も打撃を受けます。こうした絶望的な状況にありながら、冬将軍の助けを借りてモスクワへの侵攻は何とか阻止し、その間に新型機の開発と量産、前線への配備が急ピッチで進められて、それによってドイツ空軍に対抗できる力を育てていったという有様がよく描かれています。ただし、なぜここで火事場の馬鹿力的に物凄いペースで新型機の開発と量産ができたのか、その理由がよく分かりません。これがロシアの底力なのでしょうか。恐るべしというべきでしょう。終盤になると質量ともに圧倒的な力でドイツ空軍を打破してしまいます。さらに最後に対日参戦のこともちょっと書かれていますが、既に弱体化していた日本との間ではろくな航空戦は生起しなかったのであまり大した量ではありません。
第2次世界大戦が終わる頃までのソ連の航空機開発と航空戦の流れを把握するのにとてもよい本だと感じました。読み物としても面白いです。
ソビエト航空戦 - 書評 - The Special Providence
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