2006年02月04日作成
2006年05月29日更新

闘うプログラマー (上・下) ビル・ゲイツの野望を担った男たち

The Special Providence - 書評 - 闘うプログラマー


闘うプログラマー(上巻) ビル・ゲイツの野望を担った男たち G・パスカル・ザカリー 著 山岡 洋一 訳 日経BP出版センター 刊 ISBN4-8227-4016-1
闘うプログラマー(下巻) ビル・ゲイツの野望を担った男たち G・パスカル・ザカリー 著 山岡 洋一 訳 日経BP出版センター 刊 ISBN4-8227-4017-X

現在Windows OSの主流として使われているWindows XPは、Windows NT系列のOSです。NT系列のOSは1980年代末から90年代初頭にかけて新たに1から作られたもので、この本はその初代NTの開発物語です。この本の原題は、URLにも使っているとおり"SHOWSTOPPER!"です。これは下巻最後の章のタイトルでもあります。意図は、ショー(SHOW)を止めるもの(STOPPER)で、ようするにOSとしての機能を止めてしまう深刻なバグのことです。NT開発の末期には各種のバグを等級に分類してあって、その最上級のもの(最も深刻なもの)がSHOWSTOPPERと呼ばれていたとか。OSとしての機能は彼らにはショーだったんですね。ユニークな表現を使うものですが、他にも特有の表現として「ドッグフード」があります。彼らが開発しているのはOSであり、OSというのは基本ソフトですからいずれは開発作業自体をそのOSの上で行うようになるわけです。しかしバグが取れていない未熟なバージョンのOS上で開発作業を行うと作業効率があまりにも悪すぎるという問題があります。それでも、自分たちがバグによって生じる問題に直面してバグを解決しなければどうにもならないという局面に追い込まなければデバッグは進まないという観点から、ある時点で開発者全員に開発環境を自分たちで開発している新OSの上に移すように強制して、それを「ドッグフードを食う」と表現しているのです。「(開発効率が悪いことを指して)不味い食べ物ではあるが、それを食べるようにならなければ進展しない」と言っているのです。

NT開発は巨大なプロジェクトであり、その記述がプログラム開発をしたことが無い人に理解できるのか、という問題がありますが、この本は全くプログラミングを知らない人でも理解できるように平易に書かれているといえましょう。そもそも、一般のプログラマは「デジタル土方」などと卑下して言う向きもあるくらいで、実は頭脳的な作業ではなく単純労働であるという話もあります。

下巻の帯には「NT開発部隊の『死の行進』がはじまった…」と書かれていますが、まさにそのとおりの話です。「死の行進」は大規模システム開発プロジェクトではよく使われる表現で、取っても取ってもなくならないバグの前に日に夜を継いで作業をしても全く正しく動くようにならないシステム開発のことを指す言い回しです。実際開発部隊は苦しみ通して徹夜も当然のような開発体制だったため、結果的に多くの報酬を手にすることはできたものの多くの人が家庭崩壊に見舞われてしまうという悲惨な結果となっています。それでも中には開発を指揮して優秀な成果を挙げながら家庭でもよき父親であり通してしまう超人としか思えない人もいて、こういう人には全く敵いません。

最後のバグを取るために徹夜をしていたプログラマが、開発者と連絡を取るために電話をしようとしたもののその人の苗字しか分からなくて、シアトル市内の電話帳でその名前のところに片っ端から夜中の2時に電話を掛けまくるという鬼気迫るシーンが出てきます。「自分がこれだけ苦しみぬいているのだから、ちょっとくらい他人に迷惑を掛けても仕方ないだろう」という気持ちなのですが、そこまで追い詰められている精神状態が何とも凄いという他ありません。「仕事中毒」「死の行進」は日本人だけのことではなく、アメリカ人でもこういうことをしている人はいるのだということが分かる本です。

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