2006年02月11日作成
2006年05月29日更新
The Special Providence - 書評 - 海上護衛戦
原著は昭和28年に発行されたもので、私が入手したのは平成13年(2001年)に再刊されたもの。著者の大井さんは大戦中は海軍で海上護衛総司令部の参謀を務めていた人で、この問題に関する本を書くのに最適の人物といえるでしょう。大井さんは1994年に亡くなられたそうです。
第2次世界大戦で、日本が対米開戦に踏み切った最大の直接的理由は、アメリカが石油の輸出を禁止したことです。石油が手に入らなくなれば早晩日本経済が干上がってしまうために、石油を手に入れるために戦争に訴えて東南アジア進出を計画したわけです。他にも日本国内で手に入らない資源はいろいろあって、それを手に入れるのも大事だったはずなのですが、開戦してしまうと軍部はすっかりそのことを忘れて自分たちの作戦の都合ばかりを考え始めてしまいます。しかし資源を産出する地帯を占領したからといってタダで資源が手に入るわけではなく、実際にはそこで掘り出して日本へ輸送してこなければならないわけです。島国である日本としてはそれらの資源を運んでくるのは船舶に頼る他は無く、つまりは輸送船がしっかり資源を運んでこれなければ開戦の意味が無いのですが、すっかりそのことは軍部に忘れ去られてしまっていたわけです。実際のところ、この資源の問題が日本の最大の開戦原因にして最大の敗戦原因であり、ソ連の参戦も原爆の投下も敗戦の原因としては付随的なものに過ぎないと言えます。
当時日本の商船隊は世界第3位の規模を持っていて、それは日本の戦時経済を支えるに十分な規模のはずでした。戦時には、経済を支えるために資源を輸入する輸送と国内での物資の移動のための輸送の他に、軍隊を前線に送り出し補給品を届ける輸送の負荷が商船隊に加わります。それでも計算上は、それらを全て賄えるだけの輸送力が開戦時にはありました。さらにしばらくのうちは日本側の快進撃と連合軍の不手際が加わって輸送の問題は顕在化しませんでした。しかしいざ連合軍が態勢を整えると、まずは空母や戦艦などの大々的な海軍力ではなく潜水艦によって裏側からこれらの日本の輸送を支える商船隊を攻撃してきます。商船の護衛に何の注意も払っていなかった日本は次々に商船隊を失い、また輸送を無視した作戦展開によって日本からはるかに離れたソロモン諸島まで戦火が広がってその補給のために多数の船腹が費やされ、その輸送の過程でさらに貴重な船舶が失われていきます。慌てて昭和18年に海上護衛総司令部を設立して商船護衛に力を入れだすのですが、そうはいっても軍人の頭はそう簡単に切り替わらず、相変わらず護衛は後回しにされ装備も不十分なままで、さらにどんどん貴重な船が失われていきました。
この本はまさにその過程を逐一描いていて、著者が海上護衛総司令部にいてずっと護衛の問題を担当してきただけあっていかに当時の指導者がこの問題に無策であったかがよくわかります。広い太平洋で戦われる戦争は何をするにも海上輸送力が重要で、軍隊をさらに進撃させるにも撤退させるにもこれだけの船舶が必要と簡単に計算して弾き出されてきます。航空機を、艦艇を、これだけ増やすためにはこれだけの資源が必要でそれを運んでくるのにどれだけの船舶が必要なのか、これもまた簡単に計算で弾き出されることです。何をするにも船舶、船舶で、結局軍人も政治家も最後にはこの問題に行き詰まって輸送問題の重要さを痛感しますが、その時には既に手遅れだったのです。ずっと前から簡単な計算でこの破滅は予測できていたというのに。最終的には、機雷封鎖により日本と朝鮮半島・中国大陸を結ぶ基本的な外航航路さえ切断され、あまつさえ北海道と本州を結ぶ輸送さえ青函連絡船の全滅(昭和20年7月)により途絶してしまいます。この本の最後の方、終戦間際の様相を描いている箇所では海上輸送力の喪失によって刻々と日本の国力が0へ向かって減少している様子が数値を挙げて示され、工業製品の生産はおろか国民の基本的な食糧でさえ不足して大陸・朝鮮半島からの食糧輸送に大本営が特別な命令を出すなどの事態になっています。そのまま戦争を継続すると、本土決戦以前に国民が餓死してしまうところだったのが、降伏することによってかろうじて救われました。日本では、国民の食料も生活必需品も船で運ばれているのです。
いかに国家戦略の拙さが悲劇を招くかということが切々と伝わってくる書です。そしてこの本で提示されている問題点というのは今でも変わっていないように思います。相変わらず日本人は国家戦略がきちんとしていませんし、また海上輸送という点では今なおこれなしには日本は生きていけないということも同じです。海外からの資源の輸送が止まるということは、車が走らないとか製品を作って輸出できないという以前に、国民が餓死するということなのだということを、常に理解しておく必要があります。日本は膨大な食糧を輸入に頼り、そのほとんどは船舶で運ばれてきます。たとえ輸入が途絶して急に国内での食糧生産に転換したとしても、石油が無ければ化学肥料や農薬は作れませんしトラクターも動きません。できた農作物を都会に輸送してくるのにさえ石油は必要なのです。
この本を読まなければ、太平洋戦争は語れないといってもよい名著だといえます。また、国家戦略の重要性を示す意味でも好著。巻末には関連する船舶喪失の推移表、物資輸送の推移表などの貴重な資料も添えられています。
海上護衛戦 - 書評 - The Special Providence
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