2006年02月15日作成
2006年05月29日更新

やっぱり勝てない? 太平洋戦争 日本海軍は本当に強かったのか

The Special Providence - 書評 - やっぱり勝てない? 太平洋戦争


やっぱり勝てない? 太平洋戦争 日本海軍は本当に強かったのか やっぱり勝てない? 製作委員会 編 並木書房 刊 ISBN4-89063-186-0

太平洋戦争を巡っては、最初から真珠湾攻撃をしていなければ大艦巨砲主義での戦いになったのでは、とか、ミッドウェーでの兵装転換の混乱が無ければ勝てたのでは、とか、いろいろなifが語られています。そのため、実に多くのifを設定してシミュレートした、いわゆる「仮想戦記」というものが出版されていて、その中では日本が大勝している本も多くあります。そういう本に対して、果たして本当にそうだろうかと疑問を投げかけているのがこの本です。

この本では、ミッドウェー海戦でのさまざまな日本側のミスが無ければどうなったのか、零戦とそれを搭載した日本機動部隊の実力はワイルドキャットとそれを搭載した米機動部隊に比べてどうだったのか、日米の戦艦同士の戦闘が起きていたらどうなっていたのか、戦艦大和の実力はどうであったのか、日本の海上輸送力はオーストラリアやハワイの攻略作戦を支えられたのかどうか、という点について詳細な資料を基に検討しています。そして、この本の表紙にも大々的に書かれていますが、これら全ての点について否定的な結論を下して、「これらの点が日本側に多少有利になるように変わったとしても、仮想戦記に書かれているようには勝てず、結局負ける」と記しています。つまり、システム面での欠如とか戦略のミス、物量の差や戦闘時のさまざまな運不運がどうこういう以前に、日本の個別の兵器や兵士の質といった面で既にアメリカに勝てていなくて、従来主張されていたように個別の質は高かったのに物量で負けたなどということは無いと結論付けています。これは、これまでの知識とは大きく異なっていてなかなか興味深いことでした。

たとえば、ミッドウェーでの「運命の5分間」はよく知られています。ミッドウェー島を攻撃した第1次攻撃隊から「攻撃成果不十分」の報告が来たため、残してあった航空機でミッドウェーへの第2次攻撃隊を送るべく、それまで米空母機動部隊の出現に備えて対艦攻撃用の魚雷を搭載していた艦攻から魚雷を下ろして地上攻撃用の爆弾を搭載するように「兵装転換命令」を出します。ところが、その作業がまさに終わろうとしていた時にあらかじめ送り出してあった偵察機から「敵空母発見」の報告が飛び込み、慌てて兵装の再転換命令を出してそれが完了し、まさに攻撃隊が発進しようとした時に敵の空母艦載機の空襲を受けて艦載機やその燃料、兵装転換で取り外したまま放置されていた爆弾に誘爆して一瞬にして空母が失われてしまった、というのがこれまで知られていた定説。ですから、偵察機の発進が早ければ(敵空母を発見した利根4号機は故障で発進が遅れた)、兵装転換の混乱が無ければ、攻撃隊は問題なく米空母へ向かうことができて、日本の勝利に終わったのではないかといろいろ「妄想」がなされるわけです。しかしこの本では偵察機の進路や兵装転換を巡るタイムスケジュールなどを冷静に検討して、「それらの事態が改善されていても、結局は勝てない」ということを書いています。当時の日本海軍の通信システムでは、偵察機からの無線の報告が一旦母艦(偵察機は巡洋艦や戦艦からカタパルトで発進する)に着信し、そこで暗号解読されて空母にいる司令部に転送されるという手続きだったため、偵察機で報告が発信されてから司令部にその報告が届くまで30分も掛かったとかで、そういう基本的なところが改善されずに放置されているのがあまりに官僚的過ぎる体質です。

日米空母部隊の比較では、空母同士が戦った各種海戦において敵を発見できたか、攻撃隊を送り出して何機が目標に到達できたか、何発の爆弾や魚雷を敵空母に命中させられたか、それで撃沈できたかどうかということを資料を集めて解析しています。日米戦艦部隊の比較では、双方の徹甲弾の貫徹能力や装甲防御方式を分析しています。つまり、机上の空論ではなく実際の数値を分析してこの本を書き上げているのです。それによるとこれまで定説と信じられてきたことがいかに間違っていたかということがつぶさに現れてきます。最近、こういうこれまでの定説を覆すような文献が数多く登場するようになったのは、戦争を知る世代が退場して新世代に移り変わりつつあることの反映だと思いますが、これはまさにそうした本です。また、数値をきちんと分析して結論を出すことの重要さも実感させられる本です。

やっぱり勝てない? 太平洋戦争 - 書評 - The Special Providence

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