2006年01月24日作成
2006年05月29日更新

マハン海軍戦略

The Special Providence - 書評 - マハン海軍戦略


マハン海軍戦略 アルフレッド・T・マハン 著 井伊 順彦 訳 戸髙 一成 監訳 中央公論新社 刊 ISBN4-12-003611-1

アルフレッド・T・マハン(Alfred Thayer Mahan)といえば有名な海軍戦略の大家です。各国の海軍に大きな影響を与えた人物で、あとがきで紹介されていますが旧日本海軍は海軍大学校の図書室に全生徒に行き渡る部数を購入して置いてあったとか。本人はアメリカ海軍の軍人で、もっぱら戦史の研究をしていて有名になり、アメリカ海軍大学校の教官などを務め途中で依願退職してもっぱら文筆活動を行い、1914年に亡くなったそうです。最終階級は退役海軍少将。戦前においても全訳した書籍は刊行されていたものの、古く堅苦しい言い回しに終始して現代の人間には非常に読みづらいものだったため、今回現代語で全て訳し直されて刊行されることとなりました。

「マハン海軍戦略」というタイトルからは、彼の戦略理論を集大成した本のように思われますが、実は1909年に彼が(明記されていないもののおそらくアメリカ海軍大学校で)講義したものをそのまま採録したものです。緒論の冒頭が「今学期における海軍戦略に関する講義は」といかにも初回の講義っぽくなっています。そのため本文はだいぶ散漫な感じがして、マハンが言いたいことをこれでもかこれでもかと過去の戦史をいちいち挙げながら言って周っているという雰囲気です。若干、期待外れでちょっと読むのに苦労してしまいました。

海軍戦略の本ではあるものの陸戦に関する記述も多数あり、特にナポレオン戦争の話は頻繁に登場します。20世紀が始まったばかりの頃の講義なので、19世紀初頭のナポレオン戦争の記憶がまだあちこちに残っていたのでしょう。また海軍の戦史に関して言うと、この時点ではまだ近代の蒸気動力で推進する軍艦の戦闘例がほとんどないため、日清・日露の両戦争の話が頻繁に登場します。日露戦争の直後であり、また日露戦争自体がマハンの戦略理論の正しさを証明する形で日本が完勝したので、全15章のうち2章を日露戦争に費やしその他の章でも頻繁に登場します。また、第1次世界大戦の直前なのでドイツが大きな脅威として描かれています。アメリカの仮想敵国はこの本を読む限りではイギリス、ドイツ、日本と考えているように見受けられます。時代ゆえに、飛行機への考慮は全く出てきません。まだ帆走軍艦と蒸気動力軍艦の違いを解説しているレベルですからね。しかし無線電信は登場します。

全体として、この当時の海軍戦略に関する考え方を知りたいとか、戦史の分析に興味があるという人であれば読んでみても面白いと思います。ただ、先述のようにこの本に戦略の「まとめ」を期待すると失望するでしょう。

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