2007年07月15日作成
2007年07月15日更新

ヒトラーコード

The Special Providence - 書評 - ヒトラーコード


ヒトラーコード H・エーベルレ、M・ウール 著 高木 玲 訳 講談社 刊 ISBN4-06-213266-4

原題 DAS BUCH HITLER(ドイツ語)。英語にするとTHE BOOK HITLERということになります。これをヒトラーコードという日本語タイトルにしたのはダヴィンチ・コードとかの影響でしょうか?

ヒトラーに関する本は山ほど出ているものの、これは一風変わった本です。というのも、著者は2名が上に挙げてありますが、本当の著者はロシアの軍人で、上の2名は編者に近いものなのです。スターリンがヒトラーの死を疑って、ヒトラーのすぐそばで仕えていた2人を捕まえてきて徹底して尋問し、ヒトラーの死に至るまでの様子を徹底して再現するということを行って、その報告書としてNKVD(KGBの前身)の担当者がまとめあげた本を、冷戦終結後の情報公開によって発掘してきて今回出版に至ったというのがこの本です。冷戦時代にはソ連のこうした調査結果などはほとんど西側には明らかにされることが無かったので、冷戦終結後続々と貴重な資料が出てくるのは歴史ウォッチャーにとっては興味深いことであり、この本もそうした1冊ということになります。

この本では、前線での戦闘よりむしろヒトラーの身辺に焦点を当てて描いています。もちろん、前線の様子も関連してくるのですけど、もっぱらヒトラーがどんな人と会ってどんなことを喋ったか、総統本営での昼夜倒錯した生活、精神的に追い詰められてどんどんおかしくなって誰も止められなくなる様子、損害を受けすぎてもはや地図上の駒でしかなくなっている「軍」や「師団」をいじくりまわす作戦指揮などが描かれています。以前映画で見たヒトラー 最期の12日間でもヒトラーの身辺の様子は少し描かれていましたが、死ぬ直前のわずかな期間ばかりで、しかも怒りっぽくても割と人間的に描かれていたものでした。それに対してこの本ではヒトラーを徹底して貶めようと原筆者が思っているのか、戦局が悪くても大勢の友人を招いてパーティーを開いたり側近と共に贅沢な暮らしをしたり、といった様子がひたすら出てきます。政権を取ったばかりの頃にヒンデンブルク大統領をネタにジョークを飛ばす様子なども意外な感がします。とにかくヒトラーとナチ幹部の政権私物化ぶりを強調しようとしている感が目立ちます。

一方で、ソ連が戦勝国の権限を振りかざして資料を集めて書かせたはずの報告書にも関わらず、膨大な誤りが編者2人によって指摘されていて、各章ごとに末尾に何十件もの編注が付いています。「この人のこの時点での階級が誤り」とか「これはおそらく別人の誤り」等々、いちいちそれを参照しながら読まなければなりません。基本的に、ヒトラーに近い2人に尋問をした結果をまとめたものなので、その2人が間違って記憶しているとそれがそのまま書かれてしまうという傾向があり、せっかく資料や証人を強制的に集められる権力を握っていたソ連でありながら、あまり結果の正確さには拘っていないようにも見受けられる点が残念です。またソ連の担当者が、スターリンという絶対権力者に読まれることを考えて注意深く書いて推敲したためか、ソ連にとって都合の悪いことは徹底して本文から排除されていて、例えば独ソ不可侵条約については大戦史の中ではとても重要なパートなのに1箇所でしか言及されていません。

私としては、ソ連特有のプロパガンダ調や独裁者対策の検閲が入るのは当然だとしても、もっと資料を調べ上げて正確性を追究した本なのかと思っていたので、あまり正確性を重視していない様子が見えてちょっと残念です。しかしながらこの編者はこれだけ良く調べ上げて編注をしっかりつけていて、これだけでも大した労作だと思います。戦局そのものよりもヒトラーの様子に興味があればお勧めできます。

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