2005年11月29日作成
2006年05月29日更新

銃・病原菌・鉄(上巻/下巻) 1万3000年にわたる人類史の謎

The Special Providence - 書評 - 銃・病原菌・鉄


銃・病原菌・鉄(上巻) 1万3000年にわたる人類史の謎 ジャレド・ダイアモンド 著 倉骨 彰 訳 草思社 刊 ISBN4-7942-1005-1
銃・病原菌・鉄(下巻) 1万3000年にわたる人類史の謎 ジャレド・ダイアモンド 著 倉骨 彰 訳 草思社 刊 ISBN4-7942-1006-X

表紙に描かれている絵は、上巻を左、下巻を右に並べると1枚の絵になり、スペインの征服者ピサロがインカ帝国の皇帝を襲撃して捕虜にするシーンです。この本のテーマは一貫して、なぜこのようなことが起きたのか、なぜ逆にインカ帝国がスペインに侵攻してスペイン国王を捕虜にすることにならなかったのか、ということです。現在はヨーロッパを中心に発展した文明が世界を席巻している状態ですが、そうなったのは果たしてヨーロッパ白人種が他の人種より優れているからなのか、この本はそうではない、全ては住んでいた場所の周囲の環境の影響であると主張しています。そして、そうであることの論証を膨大な事実・資料に基づいて行っています。

それにしても、この本の著者は実に広い分野の知識を備えていて驚くばかりです。もちろんこの本を書くにあたって新たに調べたことも多いのでしょうが、それでも何とも凄いです。食料生産にまつわる謎では、各地域に原産の植物種や動物種をこと細かく調べていますし、文字を発明した謎では発明された文字が伝達され改良されていく経過についてよく調べてあります。初めて知った事実が多くて実に面白かったです。ネイティブアメリカン(いわゆるインディアン)の青年が、周りの白人が文字を使う様子を見て自分たちの言葉を文字に書き表す方法を独自に考え出すという話はなるほどなと思わされました。人類史上、文字が全く独自に発明された地域はメソポタミア流域と中米マヤの2箇所だけと考えられていて、他に中国が疑問符が付いている状態なのだそうですが、一度誰かが文字を考え出すとそれを見よう見まねで自分たちの言語を表せるように改良したり新しい文字を考え出したりする例は多くあるのだそうです。そして、その先例を参考に考え出された過程がはっきり分かっている文字としてこのネイティブアメリカンの例は貴重なのだそうです。

日本について述べた部分はそれほど多くありませんが、日本で銃火器が禁止された例(刀狩り)やかな文字の発明のあたりが少し出てきます。ただ、著者が勘違いをしていると思われることとしては、「日本人が、効率のよいアルファベットやカナ文字でなく、書くのがたいへんな漢字を優先して使うのも、漢字の社会的ステータスが高いからである」と書いていますが、これは違いますよね。日本人自身ですらよく理解していないことが多いのですが、漢字はかなより効率的なことがあるからこそ使われているのです。書くときはかなより面倒ですが、読むときには漢字の方がはるかに速いのです。そして、印刷物があるために通常は書く機会より読む機会が多いわけです。特にパソコンの普及で手書きで書くことに比べるとずっと漢字を使用する手間は軽減されましたからね。そういうあたりはちょっと疑問点もありますが、全体として人類の文明の始まりのあたりの歴史を知る点でも、好著であると思われました。

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