2007年01月08日作成
2007年01月09日更新
The Special Providence - 書評 - [詳解]独ソ戦全史
アメリカ陸軍の退役軍人が、冷戦後ロシア側から新たに公表されるようになった独ソ戦に関する資料を読み込んで、第2次世界大戦のドイツとソ連の戦闘に関する全貌を描いた本です。従来はソ連があまり資料を公開してこなかったことと、共産主義特有のプロパガンダがあったことなどで、ソ連側の資料はあまり参考にされず、ドイツ側の資料に立脚して西側の独ソ戦に対する見方が決まってきたところがあります。これに対してこの本はこれまで知られていなかったロシア側の基に新たな視点を提示しています。
これまで、なぜ独ソ戦でソ連が勝てたのかはいつも疑問に思ってきたところです。ドイツ側の資料を基にした戦記では、ドイツ軍はいつも英雄的に強いのに圧倒的なソ連の物量の前に屈したかのように描かれていて、結局ソ連が物量を発揮しただけなのかと思ってきました。しかしこの本は、ソ連がなぜ勝てたのかを、単に物量という点に帰着するのではなく、より根本的なところを実によく説明してくれるように思います。この本で説明されているソ連軍の兵力を見る限りでは、実は独ソ戦においてソ連側がドイツに対して持っていた兵力の優位というのはこれまで思っていたほど大きくは無かったということが分かります。対フィンランド戦争(継続戦争)でかなり優位な立場に至ったにも関わらず、フィンランドとの間での停戦をスターリンが容認して兵力をバグラチオン作戦に転用したことが流血の夏で説明されていましたが、その理由もこの本を読んだ今なら納得できます。
また、太平洋の島嶼を巡る戦争ならば、ある島への上陸作戦を準備し、実際にそれを実施して確保し、また次の島への上陸作戦の準備という繰り返しになりますから、戦争がある手順を順に実施していく作戦の繰り返しになるということはこれまでも分かっていました。これに対して欧州の地上戦ではもっと連続的に、戦線全体でぐいぐいと敵を押していく形で戦争が行われたのだと思ってきました。しかしこの本を見ると欧州の地上戦においてもソ連の対ドイツ攻勢はあるパターンがあって、それを1度実施するごとに数百kmずつベルリンへ向かって前進していくという形であったことが分かります。戦線全体でぐいぐい押していくのではなく、ある一点に兵力を集中して一挙に突破を図るというやり方をしていたというのも分かりました。それゆえ、偵察や諜報の重要性というのもはっきり分かります。よくワルシャワ蜂起に対してソ連側が「ソ連軍によってワルシャワが解放された」という実績を作るためにわざと軍の進撃を一時的に停止させてドイツ側が鎮圧するのを待って見殺しにしたということが言われますが、実際には確かにそういう側面もあったものの、ソ連の兵站の限界でそれ以上軍が進撃することは困難であったということが説明されています。
最後の方の章では満州への侵攻についても説明されており、兵力の質量共に圧倒的に優れるソ連軍が日本軍を圧倒したのかと思ってきた満州侵攻についても、実は多数の若い人命を対独戦で失ったソ連軍は老兵や少数民族出身兵が多く、兵力比もそれほど優勢ではなくて、作戦が見事だったためにあれほど一方的な結果になったのだということが分かります。これまでのソ連の戦争に対する見方をだいぶ変えて、しかも戦争の結果の理由を納得できるものにする本だといえます。注釈が各章の末ではなく巻末にまとめてあるのは読みにくいのでこれは直して欲しかったというところと、ロシア語・ドイツ語ではない地名の読みが日本で標準的なものではないものがあるところが欠点といえば欠点でしょう。
[詳解]独ソ戦全史 - 書評 - The Special Providence
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