2006年05月20日作成
2006年05月29日更新
The Special Providence - 書評 - 文明崩壊
銃・病原菌・鉄で、各地域の文明の発達程度にどうして差が出るのかを、人種の優劣ではなく各地域の環境の違いで説明したジャレド・ダイヤモンド氏が続いて著した、一度発展した文明がなぜ崩壊してしまうのかを説明した本です。前作に引き続き、各地域の豊富な実例を示しながら自分の主張の論拠としています。また特有の、同じ言葉を繰り返すしょうしょうくどいとも思われる言い回しも健在です。
この本ではかつて存在した様々な社会が実際に崩壊して滅亡してしまったり人口が激減してしまったりした例を紹介し、これまでの考古学が発見してきた資料や当時の記録などを元になぜそうなってしまったのかをいくつかの類型に分けて分析しています。ただし、前著が文明発達度合いの違いを地域の環境に求めていたのと同様に、この本でも基本的には文明の崩壊の原因を環境問題としています。もっとも、こちらはどうして自らが拠って立つ環境を社会の存続が危うくなるまで毀損してしまうのかという人間側の要因も含まれてくるのですが、その人間側の要因についても様々な分析が加えられています。
環境問題が原因で過去に実際に文明が崩壊して滅亡してしまったり、人口が激減してしまったりした社会の例として、イースター島、マンガレヴァ・ピトケアン・ヘンダーソンの3島、アメリカ南部のアナサジ族、古代マヤ文明、ノルウェー領グリーンランドが挙げられています。習慣、宗教、社会的な制度など様々な理由があって、しばしば社会が非合理な選択をして環境や生活基盤を損なってしまう様子が説明されています。この本を読んで初めて知ったのですが、ヴァイキングの時代にヨーロッパ人によって発見されて(それ以前に北米大陸の先住民によっても発見されていた)入植されたグリーンランドは一度社会が文字通り滅亡してしまい、現在デンマークの自治領になっているのはその後再入植したものなのだそうです。ノルウェー領だった時代の廃墟が残っていて発掘調査されているとか。我々も水俣病のような公害病を引き起こしたり、水質汚濁や大気汚染などの環境への影響を感じたりしてきた歴史があるわけですが、それでも社会の存続に根本的に影響があると思われるほどのことはまだありませんでした。これに対してこの本で挙げられている例の中でも、マンガレヴァ・ピトケアン・ヘンダーソンの3島に付いては、自らが引き起こした環境破壊によってマンガレヴァの島民が激減し、他の2島は全滅してしまいました。ノルウェー領グリーンランドは寒冷化の影響によりやはりヨーロッパ人の社会は全滅しました(イヌイットの社会は存続しましたが)。このように実際に滅亡してしまった例を示されると環境問題が我々の社会の存続にとって極めて重要な要因なのだということを改めて思い知らされます。
一方で、過去の社会で実際に環境破壊による危機に直面しながらも対策が採られて存続に成功した例としてニューギニア島高地、ティコピア島、そして日本が挙げられています。ニューギニア島高地でもティコピア島でも、人々は自分たちの社会のことを隅から隅まで知っているほどの小さな規模の社会だったため環境破壊の悪影響が我が身のこととして感じられ、その結果自然に対策が採られるようになったと説明されています。これに対して江戸時代の日本では、中央集権政府のトップダウンによって環境対策が強力に推し進められた例として取り上げられています。自分の国のことなのに外国人が書いた本によって初めて知るというのも情けない話ですが、江戸初期に大規模な森林乱伐によって危機に陥ったものの、幕府や藩の強力な保護対策で復活に至った経緯が詳しく説明されていました。確かに木曽の森林の話を聞くと「1本木を切ると首を1つはねられる」というくらい厳しい保護政策があったと言いますが、詳細は知りませんでした。祖先の賢明な処置のおかげで我が国は現在先進国中トップの森林被覆率74%を誇りますが、一方で外国から大量の木材を輸入していてそれは森林伐採の輸出に他ならないと批判されてもいます。
そして、現在の社会における環境問題・環境対策についても章が割かれています。ルワンダ、ドミニカとハイチ、中国、オーストラリアについて説明があります。こちらは現代のことなので豊富な資料に支えられているわけですが、科学技術が発達して環境への侵害量も大きくなっているだけに過去の実例以上に悲惨に思われる事例も沢山あります。
最後に、現在ある環境保護に向けた動きやそれが実現可能なのかどうか、といった点について記述されています。これだけの実例を示されると、我々が環境対策を採らずに放置してしまったり、採っても失敗してしまったりした場合には、戦争、大量殺戮、飢餓、文明の崩壊といった愉快ではない形で強制的に解決が図られてしまうという説明が非常に真実であるように感じられます。なぜ我々は環境を守らなければならないのかに関して、この本はこれまでになく説得力を持った主張であるように思いました。
文明崩壊 - 書評 - The Special Providence
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