2006年04月24日作成
2006年05月29日更新
The Special Providence - 書評 - 黒いスイス
毎日新聞の特派員として現地で6年間暮らした著者が、一般には自由で平和なアルプス山中の国という印象があるスイスのブラックな背景を紹介した本です。
本書で取り上げられているスイスの腹黒い面は、ロマ(ジプシー)の子供誘拐計画、第2次世界大戦中のユダヤ人難民への対応、スペイン内戦やヒトラー暗殺計画に参加したスイス人への対処、核開発計画、スイスの相互監視社会、スイスのネオナチズム、人種差別、マネーロンダリングという全8章。結構薄い本なのですが、その割には内容が濃いです。この本に書かれているこうした内容は、結局突きつめるとスイスの人種・民族差別という問題と徹底した国益追求という問題の2つに分類できるでしょう。
人種・民族差別については、自分たちの文化・伝統に執着するあまりそれになじまない他民族を受け容れないという面です。第2次世界大戦でユダヤ人を冷酷に追い返した件は知っていましたが、ユダヤ人が国内にあふれかえると人口の少ない国であるスイスは簡単にユダヤ化してしまうという恐怖があったようです。スイス国籍取得において厳しい民族差別があるという実態も描かれています。これは日本もそういう面がある(難民認定がとても厳しくて、なかなか日本国籍を取得することは難しい)ので他国を批判してばかりいられない問題なのですが。
一方徹底した国益追求については、核開発計画やマネーロンダリングなどが挙げられるでしょう。スイスは秘密厳守の銀行で有名でマネーロンダリングでよく批判されていますが、最近は犯罪で得た資金については様々な対処が行われるようになってきています。ところが、スイスでは単純な脱税が違法ではないのだそうで、帳簿や書類の偽造まで行う脱税は違法だけれども、個人が自分の所得を少なく申告して納める税金を減らしても刑事の罰則は無いそうです。このため、外国人が脱税で得た金をマネーロンダリングするためにスイスの銀行に送金しても、スイスの法律ではそれは違法ではないのでマネーロンダリング対策に協力してくれないのだとか。これは、脱税で得た金までマネーロンダリング対策に含めてしまうとスイスの銀行に預けられる資金が激減してしまい打撃を受けるため故意に残されているといってもよい抜け穴なのだそうで、いくら批判されても態度を変えないあたりに国営追求の徹底振りがうかがえます。国防に関しても日本では考えられないくらい冷徹に考え抜かれていますしね。
以前スイスについて詳しく紹介されている本を読んだ時には、スイスの憲法がとても興味を惹きました。スイスは連邦国家なので、各州(カントンと呼ぶ)は自らの意思で連邦に加盟している建前になっています。そのため主権はもともと各カントンにあり、その中から連邦にどの権限を渡すのかが憲法に書かれているため日本の憲法などとは全く書かれ方が違っていて非常に興味深いものでした。要するに「連邦は~できる、~の目的のために~する」のように書かれていて、それに書かれていないことは全て州の権限という発想です。議会は二院制なのですが、人口に比例して各カントンに定数が割り当てられる議会は比例代表と選出方法が明記されているのに、各カントンが代表者を一定数ずつ送る議会の方では何も選出方法が憲法に書かれてなく、それは結局州が自由に選び方を決めてよいということなのだとか。あくまで州に主権があるという態度が貫かれている書き方です。そのため、連邦政府がやるべき仕事も憲法上明白という感じで、与えられた予算の中でどうやってそれを実現していくか、極めて論理的に考えられて実行していく様子がその本で分かりました。その本では徹底した国益追求がそうした過程の中から出てくる様子が分かったのですが、その裏でこの「黒いスイス」で紹介されているような腹黒い面もいろいろと出てきたのでしょう。連邦が形成された過程がはっきりしていて、国民が政府に何を求めるのかもはっきりしている国と、日本のように歴史が始まった頃から既に政府が存在していて何のために存在しているのかすら意識できないような国との大きな差を感じます。
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